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オムレツの話

私は昔、オムレツというのは卵焼きの中に挽肉とタマネギが入ったものであると思い込んでいた。進歩的な友人が「いや。オムレツというのは基本的には中が半熟の卵焼なのである」と主張しだしたので笑い飛ばした。「あほか。ならばそれを卵焼き、ちうんや。具が入っているからオムレツ、いうのや」
しかし友人は譲らない。「プレーンオムレツはプレーンなので中身も卵だ」
私としては卵焼きとオムレツを区別する定義は具の有無であると確信していたので、仮にプレーンオムレツなる奇天烈な料理があったとして、それはオムレツではなく卵焼きというべきものであると主張した。もし具のないオムレツが存在するとすれば、具の有無ではない区別の条件、オムレツと卵焼きのそれぞれの定義を簡潔に示さなくてはならない。
これに対して進歩的友人はオムレツの定義を示せなかった。ただ具のないオムレツもオムレツであると言い張るのみ。そしてついには「オムレツは卵焼きの一種である」と言い放った。これには驚いた。「それは暴論だ」オムレツと卵焼きの違いはおろか、言葉の存在自体を否定するに等しい。我々はしばし言葉を失った。
そしてふと新たな疑問が沸いてきたのである。
「レツって何や?」
「なぬ?」
「オムレツのレツやがな。オムが卵でレツは焼く、か?」
「何でそう思うねん」
「カツレツちうのがあるやろ。カツをレツするのかなと思って。でもあれ、カツを焼いてるわけやないからなあ」
「カツレツって何やねん」
「カツレツも知らんのか。阿呆ちゃうか。カツレツ言うたらなあ」
「ふんふん」
「そういえばカツレツてどんなんやったかな」
「カツレツなんてもの、見たことないけどなあ」
「オムレツの秘密を解く鍵がカツレツにあるかもしれない」
「ビフテキ、トンテキのテキはステーキのテキやから、レツも何かの略語やな。きっと」
「レツ、ちうのはレットのことやで、多分。オムレット、言うからな」
「それはハムレットやろ」

つづく(嘘)