弟が、裏の工場で、変な機械のカスを見つけたのです。
なんの部品かわかりませんが、そのへんてこりんさに、たいそう心を奪われました。
そこで、純真な弟、その面白い機械を持って、まっすぐ兄のところへ飛んでいきます。
そのへんてこりんな部品をつかって、変で楽しい兄弟の遊びを思いついたのです。
兄も弟の持っている部品に興味をしめしました。
兄は、部品自体に興味が湧いたので、弟の差し出すまま、それを受け取り、眺めたりいじくったりしはじめました。
「ねっ。ねっ。変だろ。かっこいいだろ。それでね、いいことを思いついたん」
弟は兄から部品を受け取ろうと手を伸ばします。
すっごく楽しい遊び方を説明するためです。
ところが、兄は部品を弟には返さずに、高く持ち上げました。
いつものあれが始まったのです。
弟は背が届きません。「ちょっと、貸してみてよ、いいことあるから」
「じゃあ受け取れよ、ほらっ」兄は部品を上に向かってほうり投げます。
弟にはそれを受け取る力はありません。落ちてきた部品を兄が受け止めます。
「返してよっ、返せったら」
「ばーか。くやしかったら奪ってみろ」
兄は部品を弟の目の前にちらつかせたり、ほうり投げたりしながら、走り出します。
兄にとっては、弟をおちょくっているほうが楽しいようなのです。
「返せっ。ぼくが見つけてきたんだろっ」
早くも弟、涙目になっています。
弟の悲しみは、部品を奪われたことにあるのではなく、想像していた、楽しい兄弟の一時をなくしてしまったことにあるのです。
なぜなら、すでに兄を憎んでしまったのです。
「ばか。あほ。返せったら返せ。どろぼー」
「ちぇ。泣く奴があるか。こんなことで」兄は、本格的に泣き出した弟にあきれ、部品を弟に返そうと軽くほうり投げます。
「そんなにこれがほしけりゃ、返してやるよ」
弟はそれを受け取ろうとはせずに、部品は地面に落下、壊れてしまいました。
少し気まずくなり、兄は弟と壊れた部品をおいてその場から去ります。
弟は壊れた機械の部品を眺めて、またしても悲哀に溺れました。
こんなはずではなかった。
苦痛に身をよじります。
兄のほうは、いまごろになって弟がどんな遊びを思いついたのかが気になりはじめています。
弟が、それを楽しみにして、にこにこと近づいてきた様を思い出し、なんでいじわるをしてしまったのかと悔やんでいます。
ちょっとふざけてから、その、面白い遊びとやらをして遊んでやろうと思っていたのです。
兄は、弟の苦痛を想像して不憫さに身をよじります。