さようならとめ

2021年8月7日午後、死ぬ死ぬ詐欺でお馴染み、ミラクルとめがとうとう死にました。

 

7日の午後3時5分、私は夜想でリハーサル中、妻のまこさまが看取りました。平日の誰もいない時間帯や、いるのに別の部屋で映画観てたとかではなかったことが幸いです。でも明らかにとめは自らその時間を選びました。

22歳とめは晩年かなり辛そうではありました。大往生だとか、ようやく楽になれたねとか、十分生きた、これ以上何を望むというのか、と、そういう言葉が出てきてもおかしくないわけです。しかしそれでも喪失感は並大抵ではない。ミラクルを起こし続け永久に生きることが最善、次点で化け猫となって永久にご飯を食べ続けることが理想、とめのいない暮らしは我が輩の辞書にないと最早飼い主の混乱は理屈を越えているのであります。

8月7日はチルドレンクーデターminimumのライブの当日で、その前日から演奏準備に掛かりきり、弱ったとめを見ながらも何も出来ずにいました。演奏準備をしていると、何度か半狂乱になったまこさまが「とめが死ぬ。とめが死ぬ」と泣きながら助けを求めてきましたが、演奏に取り憑かれた状態で理想的な対応がまったく出来ずにいました。後で最も後悔して辛く感じるのはこのことです。

今年、冬に鼻がグスグスし始め、最初は風邪かと思ったけど慢性化し、後に首をかしげるようになりました。

ミラクルとめは一時期肝臓で死にかけましたが、晩年いつ検査しても腎臓も肝臓も若々しい健康な数値で、唯一血圧が高いことが懸念でした。失明したのも何かがどこかでブチっと切れたからというのが大方の見方でした。

脳梗塞か脳内出血を何度か起こしていたようで、場所によっては一発即死のところ、鼻の奥が変になったり、平衡感覚を失ったりしながら生き延びました。

最期は梗塞も脳出血でもなく、何というか、限界であった。というしかない状態でした。とめは何度もミラクルを起こして死から蘇りましたが、限度を超えていました。

失明したときに飼い主は絶望しましたが、猫はあほなので記憶や後悔がなく「昔は見えたのに今は見えない。辛い」と、そのような思考回路がありません。ただ単に今の現実に対処するのみです。最初は見えないことでジタバタしていましたがやがて触感と鼻と耳で普通に暮らせるようになりました。

見えなくなってから3年近くがんばりましたが、そのうち耳も遠くなり、あげくに鼻が駄目になりました。もうまともに歩くこともできず、エサの臭いもわかりません。三重苦で、まさにアンネ・フランク（このギャグが判るには「ハッピー・デス・デイ2」を観ておく必要があります）

猫病院でも驚かれていたことのひとつは、その状態でもカリカリのエサを食べられていたことでした。しかしついに食べられなくなりました。

クソ高い液体エサを買ってみたりしましたがそれだけでは栄養も生活費も足りず、出張用に持っていたカリタのハンディコーヒーミルでカリカリエサを砕いて少量のミルクと混ぜ、柔らかくして口にねじ込む方法を執りました。これはなかなかナイスで、またもりもり食べるようになっただけに留まらず、しばらくするとカリカリを貪り食うようになりました。

「こいつまたミラクル起こしよったで」

春から夏にかけてはこのような目まぐるしい状態でした。

7月は不定期に訪れるありがたい仕事のために完全に別世界におりまして、納品直後からライブの準備と、その間、人間の暮らしも出来ずとめに対して何もしてやれず、状態の悪化にも気づいていながら対処できずにいました。

「覚悟しなあかんな」という会話が日常頻繁に出てくるようになりましたが、覚悟することができないのでそういう努力を必要とするという話です。

もう起き上がることも億劫なようで、とめとめハウスに帰ることもなく寝続けるようになってきて「覚悟しなあかんな」と言いながらも実は「今年いっぱい持つかな」みたいな暢気な感覚でいたのも事実。でも猫って、1日2日で世界が変わります。

ライブの前日には見て判るほどはっきりと衰弱していました。毛並みも肌の張りも顔つきもまったく今まで見たことない状態です。ライブの前日なので人もいるし準備もあるしで、集中的にとめに掛かりきりになれなかったことはほんとに今でも後悔はないですが目眩がするほど辛いのです。

7日の午後、夜想へ出かけようとしたその1分前にまこさまが「とめが死ぬ」と助けを求めてきました。ただ事ではありません。とめの状態を見て「もう駄目だ」とわかりました。でも1分後には出なければならない。不安に震えるまこさまに全て依存し、後ろ髪引かれたまま出かけました。あと10分、残っていてやればよかった。でもそのときはあと10分なのか60分なのか4時間なのか2日なのか判断できなかった。ライブはクソ政策の煽りを受けて前倒し・時短でしたから、演奏が終わって飛んで帰ってくるまでに3、4時間の筈でした。

10分後、まこさまの膝でとめは事切れました。後で「怖かった」「辛かった」とむせぶまこさまには感謝することしか出来ず、自分の中ではとめの最期の記憶には二人がセットでいます。

機転の利く奥さまは哀しみに耐えながらもちゃっちゃといろんな事をこなしていきます。とめは花が好きだったので喜んでるはず。しかしひまわりをチョイスするとはさすがです。

今日はいきなりのお通夜で寝ずの番するのである。と、火とお香を焚き続け、張り切ります。

現在京都に在住しておられる信頼のMさんが飛んできてくださいました。おかげで我々生ける屍は人間らしさを取り戻し、大いに助けられたのでございます。

へろへろに酔っ払いながらも寝ずの番を全うし、翌日午後にはさっさと焼却されて骨になってしまいました。あっさり骨になるとはなにごとか。しかしとめはあほなのでまだ死んだことに気づかずそこいらをウロチョロしております。

高価なロイヤルカナンは買ったばかりだし、重い猫砂は二袋あるし、おむつも薬もまだまだあるのに。何死んどんねんと。

みっけの倍生きたとめは、化け猫のレベルを超越して最後はゾンビになりました。ゾンビ話はエグいのでまた別の機会に譲りますが、ゾンビになるくらいだからゴーストになっていてもおかしくない。とめのミラクルは半端じゃないんですよ。

とめはこれまで実に多くの人たちに見守られてきました。とめのついでに私自身も見守れてきました。本当に感謝しかないです。

さようなら

— とめ (@tome_the_cat) August 7, 2021